横浜地方裁判所 平成7年(ワ)1431号 判決
原告
工藤剛
ほか三名
被告
西山三恵子
主文
一 被告は原告工藤剛に対し、金八七二万九七四一円、原告工藤雅子に対し、金一八六万七九八六円、原告工藤淳、同工藤碧に対し、各金五万五〇〇〇円及びこれに対する平成五年五月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は第一、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
一 被告は原告工藤剛に対し、金一六七四万四〇一〇円、原告工藤雅子に対し、金三〇六万一一八四円、原告工藤淳、原告工藤碧に対し各金一一万円及びこれらに対する平成五年五月三〇日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
(請求の趣旨に対する答弁)
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
(請求の原因)
一 交通事故の発生
1 日時 平成五年五月三〇日午後〇時三〇分頃
2 場所 横浜市青葉区元石川町七五一三先路上
3 事故態様 被告は普通乗用自動車(川崎五六ふ六八九一、以下、加害車両という)を運転して前記場所の保木入口交差点において、あざみ野方面から赤信号で進入したところ、柿生方面から青信号に従つて進入した原告工藤剛(以下、原告剛という)運転の普通乗用自動車(横浜七九に二九六八、以下、被害車両という)に衝突した。
二 責任原因
被告は、前記交差点に進入するに際し、前面の信号が赤を表示していたので交差点手前で停止する義務があるにもかかわらず、これを怠り時速約六〇キロメートルで進入したため本件事故を惹起したものであるから、被告は民法七〇九条により原告らの後記損害を賠償する責任がある。
三 原告らの傷害と治療の経過
1 原告剛
本件事故により、頸椎捻挫、左膝挫傷の傷害を受け、平成五年五月三〇日から同年一一月六日まで通院(実治療日数一六日間)したが、左耳鳴り、左感音性難聴、左耳狭窄症の後遺障害があり、右後遺症は、自賠法施行令第二条の後遺障害別等級第一三級に該当する。
2 原告工藤雅子(以下、原告雅子という)
本件事故により、外傷性小腸穿孔、腹膜炎、外傷性膵炎の傷害を受け、平成五年五月三〇日から同年六月一六日までの一八日間入院し、同月二一日から同年一一月四日まで通院(実治療日数八日間)した。
3 原告工藤淳、同工藤碧(以下、原告淳、原告碧という)
本件事故により、打撲、擦過傷の傷害を受け、一日通院した。
四 原告らの損害
1 原告剛
(1) 慰謝料 一〇〇万円
(2) 後遺障害による逸失利益 一三二七万四〇一〇円
年収(平成四年度) 一二二〇万四〇〇〇円
労働能力喪失率 一三級 九パーセント
稼働年数 症状固定時(平成五年八月二日)
剛 昭和一九年八月二三日生 四八歳
六九―四八=一九
一二二〇万四〇〇〇×一二・〇八五三×〇・〇九=一三二七万四〇一〇(円)
(3) 後遺障害による慰謝料 一七〇万円
(4) 損害の填補 七五万円
(5) 弁護士費用 一五二万円
(6) 請求金額 一六七四万四〇一〇円
2 原告雅子
(1) 入院雑費 二万三四〇〇円
(2) 医師への謝礼 一〇万円
(3) 慰謝料 一三〇万円
(4) 休業損害 一三六万七七八四円
女子大卒年令(四四歳)平均年収五八六万九七〇〇円
一日 一万六〇八一円
休業期間 〈1〉入院日数 一八日間
〈2〉実通院日数 八日間
〈3〉通院期間 一三七日間
〈1〉、〈2〉については一〇〇パーセント、〈3〉については実通院日数を控除した期間について七〇パーセントを休業損害の期間として算定する。
(計算式)
一万六〇八一×一一六=一八六万五三九六(円)
このうち、休業損害として一三六万七七八四円を請求する。
(5) 弁護士費用 二七万円
(6) 請求金額 三〇六万一一八四円
3 原告淳、同碧
(1) 慰謝料 各一〇万円
(2) 弁護士費用 各一万円
五 よつて、被告は、原告剛に対し一六七四万四〇一〇円、原告雅子に対し三〇六万一一八四円、原告淳、同碧に対し各一一万円及び右各金員に対する本件事故の日である平成五年五月三〇日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(請求原因に対する答弁)
一 請求原因第一項の1ないし3は認める。
二 同第二項中、加害車両の交差点進入前の速度が約六〇キロメートルであつたことは否認し、本件事故が被告の赤信号違反の結果発生したことは認める。
三 同第三項の1中、通院日数、後遺症の病名は不知、後遺症が自賠法施行令第二条の後遺障害別等級第一三級であるとの主張は争い(自賠責保険の調査事務所による事前認定では、後遺障害等級一四級に該当するとのことである)その余は認める。
同項2及び3はいずれも不知。
四 同第四項の1の(1)、(3)の金額は争う、(2)は不知、(4)中、原告剛が七五万円の支払いを受けたことは認める(なお、原告剛が支払いを受けたのは七五万円を含む七九万四七〇九円である)、(5)は不知、(6)は争う。同項2の(1)ないし(3)及び(5)は不知、(4)中、原告雅子の事故時の年令、入通院期間及び入通院の実日数は認め、その余は不知ないし争う。同項3は争う。
(被告の主張)
原告剛が主張する後遺障害については、前記調査事務所において、一四級相当の事前認定が出ており、右認定に至つた経緯、理由は、本件事故後、原告剛が左耳耳閉感を自覚、また同耳の聴力が若干低下したため耳鳴りの症状を発症したとのことである。
(被告の主張に対する認否)
否認する。原告剛の後遺障害のうち、聴力の障害(左感音性難聴)については、一四級三号の「一メートル以上の距離では小声を解することができない程度」に該当する。
左耳鳴り及び左耳管狭窄症については、併せて一三級に相当する。よつて、原告剛の後遺障害は一三級に該当する。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び承認等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因第一項(交通事故の発生)の事実及び同第二項中、交差点内に進入時の速度を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。右の事実によれば、被告は原告らに対し、民法七〇九条に基づき後記損害を賠償する責任がある。
二 そこで、原告らの損害について検討する。
1 原告剛の損害
(1) 慰謝料
当事者間に争いのない原告剛の本件事故による受傷の程度及び通院期間を考慮すると、慰謝料として三五万円が相当である。
(2) 後遺障害による逸失利益
まず、原告剛の後遺障害は後遺障害別等級表のいずれの等級に相当するかにつき検討する。
成立に争いのない甲第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七号証及び原告剛本人尋問の結果によれば、原告剛には本件事故による後遺障害として、左耳鳴り、左感音性難聴、左耳管狭窄症が存在し、左耳鳴り、難聴の自覚症状があり、左耳の耳鳴りが一時も止むことなく、左の耳では電話の声もよく聞こえないため右耳で応答していることが認められる。
原告剛は、右の聴力の障害が後遺障害別等級表第一四級に相当するのであれば、右難聴よりも症状の重い左の耳鳴りは同表第一三級以上に相当すると主張する。
前掲甲第二、第七号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一、第二、第四号証によれば、自賠責保険の調査事務所は、原告剛の後遺障害の程度を次のように考え、後遺障害別等級表第一四級に相当すると判断したこと、すなわち、原告剛の左耳鳴り、感音性難聴の原因は本件事故後左耳閉感を自覚し、また聴力検査において右聴力に比して左聴力の低下が認められ、そのための耳鳴りと思われること、外傷との因果関係は受傷後から症状の自覚があつたためであること、感音性難聴の原因、程度は耳閉感が受傷後から生じており、通気加療によつて改善が見られたため左耳管狭窄症が考えられ、外傷との因果関係も多少は関与していると考えられるとして、原告剛の前記後遺障害は、後遺障害別等級表第一四級に相当すると判断したこと、原告は、同表第一三級に相当すると主張するが、具体的に同表第一三級に相当する障害が残存しているのか不明であり、原告剛が主張する耳鳴りは自覚的なものにすぎず、これを他覚的に証明し得ないことから、第一四級を上回る等級を適用することができないと判断したことが認められる。
他に、原告剛の後遺障害が後遺障害別等級表第一三級に相当するとの証拠はない。
以上の事実によれば、原告剛が主張する耳鳴りは自覚的なものにすぎず、他覚的に証明し得る感音性難聴が原告剛の後遺障害ということになり、右の後遺障害の程度は、一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたものと認められ、後遺障害別等級表第一四級に相当するものと認めるのが相当である。
前掲甲第二号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四号証によると、原告剛の平成四年度の年収は一二二〇万四〇〇〇円であること、症状固定時である平成五年八月二日当時、原告剛は四八歳であるから、稼働年数は一九年であることが認められる。
これをもとに後遺障害による逸失利益を計算すると、次のとおりとなる。
(計算式)
一二二〇万四〇〇〇×一二・〇八五三×〇・〇五=七三七万四四五〇(円)
(3) 後遺障害による慰謝料
前記認定の後遺障害の程度を勘案すると、慰謝料としては、一〇〇万円が相当である。
(4) 損害の填補
原告剛が被告から治療費を除き七五万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三号証の二によると、雑費として四万四七〇九円の支払いを受けたことが認められる。これを前記(1)ないし(3)の損害合計八七二万四四五〇円から控除すると、原告剛の損害残額は七九二万九七四一円となる。
(5) 弁護士費用
本件認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮すると、被告に負担させるべき額は、八〇万円が相当である。
(6) 原告剛の請求金額は、八七二万九七四一円となる。
2 原告雅子の損害
(1) 入院雑費
原告雅子が本件事故の治療のために一八日間入院したことは、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三号証により認められ、入院雑費として、一日につき金一三〇〇円が相当であるから、原告は入院雑費として金二万三四〇〇円の損害を被つたものと認められる。
(2) 医師への謝礼
社会通念上相当なものであれば損害として認める余地もあるが、原告雅子が医師への謝礼として一〇万円を出捐したことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 慰謝料
前掲甲第三号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第八号証により認められる入院日数、八日間の実治療日数及び傷害の程度等を考慮すると、慰謝料としては七〇万円が相当である。
(4) 休業損害
原告雅子が本件事故の治療のために一八日間入院したことは前記認定のとおりであり、前掲甲第三号証によると、原告雅子は平成五年六月二一日から同年一一月四日まで一三七日間通院し(実治療日数は八日間)であることが認められる。
原告雅子は本件事故当時、四四歳であつたことは当事者間に争いがなく、前掲甲第三号証によると、家事労働に従事していたことが認められる。家事労働者については、賃金センサスの女子平均賃金をもつて休業損害を算定するのが相当である。平成五年の被害者の年令に対応する女子労働者の平均は三四五万三八〇〇円(日額九四六二円)である。
入院日数(一八日間)及び実通院日数(八日間)については一〇〇パーセント、通院期間(一三七日間)については実通院日数を控除した期間について六〇パーセントを休業損害の期間として算定する。
(計算式)
九四六二一×一〇三=九七万四五八六(円)
(5) 弁護士費用
本件認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮すると、被告に負担させるべき額は、一七万円が相当である。
(6) 原告雅子の請求金額は、一八六万七九八六円となる。
3 原告淳、同碧の損害
(1) 慰謝料
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第二三、第二四号証によると、本件事故により、原告淳は右下腿挫傷、擦過傷、打撲の、原告碧は右頬部打撲の傷害を受け一日通院したことが認められる。
右傷害の程度、通院日数を考慮すると、右原告らの慰謝料としては、各五万円が相当である。
(2) 弁護士費用
本件認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮すると、被告に負担させるべき額は、各五〇〇〇円が相当である。
(3) 原告らの請求金額は、各五万五〇〇〇円となる。
三 よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告剛が八七二万九七四一円、原告雅子が一八六万七九八六円、原告淳、同碧が各五万五〇〇〇円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 日野忠和)